もしも、もしも、ね。


「ま、いいよ。」



黙り込んだ私を察してくれたのか、准君は少しの間の後肩をすくめた。

准君は明るいムードメーカーで勉強的な頭脳面は悪いけどいいとは言えない。

だけど、人の気持ちに敏感な人。

だからこそみんなにも好かれるんだろうなと思う。



「望果に怒られそうだから俺もう行くけど。暁里はまだそこいる?」



マダ



ソコニ



イル・・・?



「―――ううん、行く。」

「大丈夫?」

「うん、私も望果に怒られたくないし。」



少しだけ微笑めば、准君は一瞬目を瞬かせてから「怖いんだよな、アイツ」って笑った。



「―――いつまでも、“ここ”に座っていられないよ。」



准君の指す“そこ”は、ただの階段の踊り場。

偶然人が通らないだけの、秋の少し涼しい風が通り抜けるだけの、場所。

私が物理的に座ってる場所。



でも。



私は立ち上がりながら、少しだけ瞳を閉じた。

思い出す、“昔”。



イツマデ ソコニ スワリコンデ イルノ ?



私は、立ちあがらなきゃいけない。

ううん、座り込んじゃいけない。ましてや、元々が嘘なのだから。

傷つく理由も、座り込む理由も、ない。

前を向いて歩くって、過去は忘れて、でも過去は繰り返さないって、そう決めたんだ。


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