君じゃなければ
俺と同じくらいの背丈。
きっと彼女も小学生くらいだろう。
そして被害者と同じ名前。
その子が入院している。
これは偶然…ではないだろう。
きっと彼女が被害者の一ノ瀬凛、本人。
俺は凍りついたようにその場から動けなくなった。
俺のせいじゃない。俺のせいじゃ……
それでも、俺は彼女が気になって仕方なかった。
足が勝手に彼女が入っていった病室へと向かう。
そして……
ガラ………
俺は少しだけドアを開けて中を覗いた。
『どう?寝てばっかで体痛くない?』
部屋の中で彼女は誰かに話しかけていた。
この部屋の患者の顔は見えないが、彼女の顔はギリギリ見えた。
さっきの暗い顔とは大違い。
明るい表情で、元気な声で話しかけていた。
なんだ………
案外大丈夫そうな感じに俺は少しホッとした。
けれど、それは俺の勘違い。
大丈夫なはずがなかった。
その事を彼女達の会話が教えてくれた。
『暇だし、ゲームする?携帯ゲームしよっか!特別だよー。』
『………』
『ゲームより絵本とかの方がいい?』
『………』
『あ、お腹空いてるでしょ?ご飯まで時間あるし!お菓子買ってこよっか?』
『…………』
彼女達の会話は変だった。
変…というか会話になっていなかった。
彼女ばかりしゃべっていて、もう一人の声がしない。
そして彼女は呆然とその場に立ち尽くした。
まるで絶望の淵にいるかのように。
そして……
彼女は声を殺すように泣いた。
彼女の目からは溢れんばかりの涙。
でも、泣き声をあげる事はなかった。
俺はそんな彼女の姿に目が釘付けになってしまった。
泣いている姿が綺麗だと……
不覚にもそう思ってしまったのだ。
彼女が誰の為にそんな風に泣くのか…
俺はこの部屋の患者のプレート名を見た。
名前は…一ノ瀬…一ノ瀬………
何て読むのだろう。
めったに見ない漢字に俺は何て読んだらいいのか分からなかった。
その時…
『そこで何をしているの?』
俺は看護士さんに見つかってしまった。