クールな上司とトキメキ新婚!?ライフ

「ごめんなさい、やっぱり今日は帰ります」

「どうしたの、結衣」

 前を歩く友人が私の元に駆け寄る。


「ちょっと、風邪っぽい気がして。みんなに移したらいけないし、今日は帰ろうかなって思って」

「大丈夫?!熱あるから顔が赤かったの?」

 平気と答えながら、頬を染める熱の正体が他にあることは秘める。


 連絡先を交換した羽野さんとは、後日改めて会う約束をした。きっとそれは社交辞令かもしれないけれど、今はそんなことどうでもよくなってくる。




 みんなに別れを告げ、地下鉄駅の階段を下りていく。
 ホームで電車を待つ間、携帯を何度も眺めてはバッグにしまった。



『今から帰ります』


 なんて、言わなくてもいいのに。


 部長が待ってるって言われたから。


 他の匂いをつけて帰ってこないようにって、見つめてきたから。



 バッグの中で鳴った携帯を手にする。
 メッセージが届いていると通知があって、すっかり冷たくなった指先で画面に触れた。



『わかった』


 たったそれだけなのに、どうしてこんなに嬉しくなるんだろう。



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