クールな上司とトキメキ新婚!?ライフ
25年生きてきて、こんなに一瞬に感じるランチタイムはなかったと思う。
誘われて、待ち合わせて、車に乗って……どれもが駆け足で思い出される。それに、触れられた髪が懐いてしまってようで、名残惜しそうにする。
運よく1人きりになったエレベーターの中、指に髪を巻きつけて深く息をつく。
「ドキドキさせるつもりじゃないっていうのは分かってるんだけど……」
また誘うなんて言われたら、それを気にせずにはいられなくなる。
バッグに入れていた携帯が震えて、おもむろに取り出す。
『俺、嘘つかれたくないんだけど』
柏原さんの怒りが文面から伝わる。返事をしようと文字を選んでいたら、続けて吹き出しが表示された。
『千堂部長と、つき合ってんの?』
『お疲れさまです。千堂部長にランチに誘われただけです』
『友達って言ってたじゃん』
『それは――』
と打って、後が続かなくなった。
その場しのぎとはいえ、部長といるなんて言えなかっただけで、嘘をつくつもりはなかった。部長だって、誰にも気づかれないように誘ってきたわけで、その帳尻だって合わせなくちゃいけない。