クールな上司とトキメキ新婚!?ライフ

 25年生きてきて、こんなに一瞬に感じるランチタイムはなかったと思う。
 誘われて、待ち合わせて、車に乗って……どれもが駆け足で思い出される。それに、触れられた髪が懐いてしまってようで、名残惜しそうにする。


 運よく1人きりになったエレベーターの中、指に髪を巻きつけて深く息をつく。


「ドキドキさせるつもりじゃないっていうのは分かってるんだけど……」

 また誘うなんて言われたら、それを気にせずにはいられなくなる。


 バッグに入れていた携帯が震えて、おもむろに取り出す。


『俺、嘘つかれたくないんだけど』

 柏原さんの怒りが文面から伝わる。返事をしようと文字を選んでいたら、続けて吹き出しが表示された。


『千堂部長と、つき合ってんの?』

『お疲れさまです。千堂部長にランチに誘われただけです』

『友達って言ってたじゃん』

『それは――』

 と打って、後が続かなくなった。
 その場しのぎとはいえ、部長といるなんて言えなかっただけで、嘘をつくつもりはなかった。部長だって、誰にも気づかれないように誘ってきたわけで、その帳尻だって合わせなくちゃいけない。


< 53 / 361 >

この作品をシェア

pagetop