【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
【オマケのオマケ】



拓海が帰ってきたのは、
私が結衣さんを送ってきてから、
しばらくしてからのことで。

私はその時、何となく手持ち無沙汰で、
夕食の準備をしていた。

「ただいま」
そう言って台所に入ってきた拓海が、
私の料理の手元を覗き込みに来る。

「あのな……」
耳元に彼の声が聞こえる。

ふと振り向こうとすると、
こっちを向くな、そっち向いておけ、という。
私は意味が分からなくて、そのまま前を向いている。

「お前の母ちゃんと、隼大に、
お前を嫁さんに下さいって言ってきた……」
そう彼の低い声が耳元で聞こえる。

その言葉に胸が熱くなって、
思わず私は黙り込んでしまう。
ただ、ざあざあと、洗うものもないのに、
手元から水が流れ落ちていく。

「……昨日言ったつもりだったんだが、
けじめだからな、
もう一度ちゃんとお前に直接言うから聞いとけよ」

振り向こうとする私を避けるように背中越しに私を抱く。

「……顔見るな」
そう言う声が照れている。

私の髪の毛に彼がそっとため息を落して。

「俺の、嫁さんになってくれ。
……もう二度と、悲しい思いで
一人で泣かせたりしないから」

私は彼の顔を見ないまま、
振り向いてその胸に顔をうずめる。

「……ほら、言った傍から泣くな……」
ぎゅっと彼の背中に手をまわして、
涙を彼のシャツに染み込ませる。

「……泣いてないです」
最初に彼の前で泣いたときみたいにそう呟く。
あのころは、この人の前で、
こんな風に甘えて泣くなんてこと、
あることも想像してなかった。

そっと彼が私の髪を優しく梳いていく。

「……ただ、嬉しいだけ……」
ポツリと、そう言うと、

「……じゃあ、そう、隼大にきちんと言ってくれ。
アイツに脅されたからな、もう泣かすなって……」
苦笑交じりに彼が囁く。

それから私の頤に指先を伸ばして、
そっとキスを落す。
ゆっくりと唇が離れて、
鼻が触れ合う距離で、
聞くまでもない事を、
彼が少し震える掠れた声で囁く。

「……それで、
…………お前の返事は?」




  ~END~
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