マイノリティーな彼との恋愛法


病院に行って、「喉が赤いね〜風邪だねぇ」と内科の先生にあっさり診断をくだされた私は、解熱剤といくつかの薬を処方してもらい、帰りにポカリを大量購入してなんとかアパートへなだれ込んだ。

玄関に着いた瞬間にホッとして、履いていたブーツを乱雑に脱ぎ捨てる。

500ミリリットルのペットボトルで5本購入したうちの1本だけを袋から出して、残りは袋のまま玄関に放置。
ずるずるとダル重い体を引きずってベッドへ倒れ込んだ。

朦朧とする意識のなかエアコンをつけて適当にコートを脱ぎ、ポカリで薬を喉に流し込む。


「うぅぅ〜……きっつい…………」


ひとり暮らしをしていて、いつも思うこと。
それは、体調を崩した時に誰にも頼れないのが辛いこと。
弱音を吐く相手もいないし、世話をしてくれる人もいない。食べ物も飲み物も自分で調達し、無ければ買いに行かなければいけない。

「大丈夫だよ」って頭を撫でてくれる相手がいないのは、身も心も弱ってる今の私にはかなりのダメージだった。


グレーのスヌードを首から抜こうとして、そこで限界がきて眠りについてしまった。





モヤモヤした霧の中を歩いて、目の奥がチカチカして、足元は覚束無い。
きっとこれは夢なのね、とすぐに分かるような空間に私はいて、このまま去年の秋に戻れたらなぁと願った。


いつも1人でランチをしていたあの頃。
ビルの社員ゲートの前で、神宮寺くんにぶつかった日に戻りたい。

私が背後にいた清掃のおばさんに気をつけていたなら、神宮寺くんの背中にぶつかることもなかった。
彼が衝撃でメガネを落とし、それを踏むこともなかった。

あれが無ければ、私と彼は出会うことなんてなかったのだ。


初めて彼の顔を見た時、彼はメガネを壊されたにも関わらず冷静だった。
これといった特徴のない顔と、これといった特徴のない無造作な髪型。
少し厚ぼったい瞼と無気力な目をしていたんだった。

身長の高い彼を見上げて、自然に目が合ったあの瞬間、今もすぐに思い出せる。


運命的な出会いじゃない。
ドラマチックな展開もない。
好みのタイプでもないし、こいつだけはありえないって思ってたはずなのに。


それでも私は、彼に恋に落ちた。


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