ケダモノ、148円ナリ
ケダモノを買いました
 



「結婚するんだ」

「え? 誰がですか?」

 佐野明日実(あずみ)は祖父の代から通っているお店の、大好きなポトフを食べかけた手を止める。

 顕人(あきひと)は、
「俺だよ」
と言ったあとで、振り返り、二杯目は違うワインを頼んでいた。

「お前もいるか?」
と振り返り訊いてくるので、

「いえ、いりません」
と言った声は、びっくりするくらい普段通りだった。

 心配そうに顕人がこちらを見る。

「お前を残していくことだけが、気がかりだが」
と顕人は、貴方私の親ですか、と問いたくなるようなことを言ってくる。

 相変わらず整った顔だ。

 家が近所だったせいもあり、小さなときから、少々抜けている自分をずっと見守ってきてくれた従兄の顕人。

 この顔を間近に見てきたせいか。
 どうしても、理想が高くなり、今まで恋人のひとりも出来ないできた。

「式は来月だ」
「早いですね」
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