ケダモノ、148円ナリ
 この人が欲しかったのは、きっと、あの家じゃない。

 イタイノ イタイノ
   トンデイケ

 失ってしまった家族だ。

 明日実は貴継のいつもより丸まった背にすがりつく。

「……いや、今ではそう思ってはいない。
 ただの意地だ」

「貴継さん」

「強がりでもない」
と貴継は彼の肩に触れている明日実の手におのれの手を重ねてきた。

「俺の未来を思ったとき、いつからかあの家は見えなくなっていた。

 お前との生活を思い浮かべたとき、あの家は浮かばないなと気づいたんだ。

 いつの間にか、俺の家族はもうあいつらじゃなくなっていた」

 明日実、お前だ、と明日実の手を強く握る。

「そして、将来、お前が産むかもしれないお前の子だ」

 明日実はそのままじっとしていた。

 貴継さんをぎゅっと抱き締めたいなと思っていた。

 でも、なんだか恥ずかしくてできないと思っていると、振り向いた貴継がいつもの顔で笑って言ってくる。

「どうだ。
 落ち込んでる俺にきゅんと来たか」

 まるで今の姿が演技であったかのように貴継は言うが――。

「……きゅんと来ましたよ」

 そう認めると、貴継は驚いたような顔をしていた。
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