ケダモノ、148円ナリ
 



「それではおにいさま、また」
とすぐに仕事の電話がかかって帰ることになった顕人を見送りに、明日実は、その見知らぬ男と外に出る。

 男は何故か付き合いよく、話を合わせてついて来てくれた。

 タクシーに乗った顕人は窓を開け、男に訊く。

「すまないね。
 ゆっくり話をしたかったんだが。

 また今度、席をもうけるよ」

 急だったから、という顕人に、そうですね、と苦笑しながら思っていた。

「ああ、ところで、慌ただしくて名前も訊けてなかったね。
 僕は稲本顕人(いなもと あきひと)」

「天野貴継(あまの たかつぐ)と申します」
と男は言った。

 本名かどうかは知らないが。

「天野さん」
 そう顕人は確認するようにその名前を繰り返し、じゃあ、また、と言って去って行った。

 怒涛の展開に張り詰めていた気が緩み、明日実は、ふう、と息を吐いた。

 緊張感から解放された明日実は、男を振り向き、つい、思ったままを口にしていた。

「……誰?」

「そりゃ、俺のセリフだ……」





< 8 / 375 >

この作品をシェア

pagetop