【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
隣に座るお姉ちゃんが、何やら真剣な表情で私を見ていた。
急にどうしたんだろう?
不思議に思って首を傾げると、車窓から見える景色に視線を向けながらお姉ちゃんが口を開いた。
「その彼氏とさ、同棲でもするの?」
「し、しないよ」
ほ、ほんとにどうしたの、突然そんなこと聞くなんて。何を言い出すのやら……。驚いて、少し声が上擦った。
「それなら……」
何やら言い辛そうな表情で、変わらず外を見つめているお姉ちゃん。
その先の言葉が気になって、私は耳を澄ませた。
「戻ってきなよ、家」
お姉ちゃんから出てきた台詞に、心臓がどくりと音を立てた気がした。そのくらい、返事に困る提案だった。
「お母さんも左吾郎さんも、いつも心配してるよ」
何を言い出すかと思えば……。そのことかと、体が少し強張る。
心配させているのは申し訳ないけれど、今更、実家暮らしに戻るつもりはない。
お姉ちゃんは、結婚はしたくないようで、今もずっと実家暮らしだけど……わたしは、二十六の時に、一人暮らしを始めた。
「自立、したいから。あの家、会社からも近くて便利なの」
それは、半分が本当で、半分は嘘。