イジワル副社長と秘密のロマンス
袴田さんの言葉が樹君の機嫌を損ねてしまったのは、明らかだった。
凍りつきそうなくらい鋭く冷たい樹君の瞳。苛立ちを隠さぬままに低く威圧的に発せられた声。
袴田さんは恐怖で身体を震わせている。自分に向けられたわけでもないのに、私もその迫力に足が竦んでいるのだから、無理もないと思う。
胸倉を掴んでいる樹君の手にさらに力が込められ、再び袴田さんから苦し気な声が漏れた。
私を掴んでいた袴田さんの手が震え、徐々に力が抜けていく。痛みが遠ざかり、掴まれている感触も消えていく。
袴田さんの手が自分から離れたことで、おぼつかない足取りながらも、やっと私は後ずさることができた。
袴田さんは樹君の迫力にのまれそうになっていたけれど、すんでのところで、気持ちを立て直したらしい。
胸倉を掴む樹君の手を振り解こうともがき始めた。ついでに噛みつくように言葉を発する。
「そっ、そうですよ……三枝さんだって……三枝さんだって! 乱暴で、偉そうで、冷血な男より、僕の方が絶対良いに決まってる!」
「何言ってんの? それはあんたが決めることじゃない。乱暴で偉そうで冷血な男が良いか、それとも妄想力逞しいストーカー男の方が良いか、それを決めるのは千花でしょ? 本人に言われるならまだしも、あんたに言われても何も響いてこないんだけど」