イジワル副社長と秘密のロマンス


「これからは遠慮しないで来て」


柔らかな温かさが首筋を掠め、ぴくりと体が反応する。


「それとも、わざわざ来るの面倒くさい?」


彼の唇が、首筋から耳元へと昇ってくる。


「だったら、一緒に住む?」


ねだる様に囁きかけてきた声も、私を見つめる瞳も、甘い熱を帯びている。


「同棲しようか」


彼が提案してくれたこと。そして、いつかそうなるといいなと思い描いていた日々が、もしかしたら近いうちに実現するかもしれないということ。

心と身体。どちらの距離もまた少し近づいた気がした。嬉しくて、言葉が出なくなってしまう。

胸がいっぱいで涙ぐんでしまった私の頬に、樹君の指先が触れた。彼の表情がわずかに柔らかくなった。

見つめ合い、微笑み合い……数秒後、急に樹君の眉根が不機嫌そうに動いた。


「なんか用?」


鋭く突きさすように、樹君が視線を移動する。


「見世物じゃないんだけど」


言われて私も、彼の視線を追いかけた。

閉められたはずの副社長室の扉がわずかに開いて、その隙間から誰かが室内を覗いている。

小さく悲鳴を上げ、樹君の腕の中から出ようとしたけれど、私の腰に回された樹君の腕を、解くことは出来なかった。


< 201 / 371 >

この作品をシェア

pagetop