イジワル副社長と秘密のロマンス
「……わ、悪い。覗いたり、盗み聞きするつもりは全くなかったんだけど……驚いた」
静かに扉を押し開け、室内に入ってきたのは社長である彼のお兄さんだった。
現れた姿に、舞い上がっていた気持ちが急降下する。
樹君の腕の中から逃げ出したくて、先ほどよりも必死になったけれど、またもや彼は私を離してくれなかった。
しかたなく言い訳を考え始める。頭をフル回転させる。でも上手い言い訳が、何も思いつかない。
「樹、そんな顔をするんだな」
目を大きくさせたまま、社長がじみじみと呟いた。
樹君は社長と私を交互に見る。そしてわずかに首を傾げた。
「俺、どんな顔してる?」
「可愛い顔してるぞ」
「殴っていい?」
「お兄ちゃんお兄ちゃんって俺のあとを追いかけていた、あの頃みたいな可愛い顔をしてたな……あぁ、小さかった頃の樹の笑顔を思い出したら、なんだか涙が……本当に可愛かったなぁ。お兄ちゃん大好きって言ってくれたよなぁ。本当にお前が可愛くて可愛くて」
「俺の記憶にはない。鬱陶しいからやめて」
本当に涙ぐんでいる社長に、唖然としてしまう。
けど、樹君に冷たくばっさり切り捨てられても、にこにこと微笑みを浮かべているのを見ると、弟への愛情の深さを感じずにはいられない。