イジワル副社長と秘密のロマンス
白濱副社長がぬいぐるみを弄っていた手を止めた。何かに気づいたらしく、「ん?」と小さく声を上げる。
「どうかしましたか?」
「……ここだけ縫い目が」
言われて、私は椅子から腰を浮かした。ぬいぐるみへと顔を近づける。
気にも留めなかったけれど、黒ネコの左腹あたりの縫い目が妙に乱雑である。左手は白ウサギと繋がっている。それに隠れ、今まで気付かなかったのだ。
あとで私も確認してみようと考え、縫い目を指でなぞっている白濱副社長から携帯へと視線を落とした。
椿からのメールを読み、笑ってしまう。“和菓子はかまだ”がショートケーキ味の饅頭を売り始めたらしい。しかも考案は、洋菓子を敵視していたあの袴田さんだ。
“千花に振られて、ご乱心みたいだよ”という一文に、何とも言えない気持ちになってしまう。表参道店の近くで追い返したあの出来事は、きっと無関係ではないだろう。袴田さんの何かのスイッチを入れてしまったのかもしれない。
最後の“新作饅頭送るね! 彼氏と食べて!”に、また笑ってしまう。
このことを早く樹君に報告したい。樹君の到着まであとどれくらい待てばいいのだろうか。近くまで帰ってきたら連絡を入れると言われたけれど、待ちきれない。
携帯から窓の外、そしてまた携帯へと忙しなく目線を移動していると、再び、手の中で音が響いた。