イジワル副社長と秘密のロマンス
「三枝さん!」
一階に通じる階段の前に来たところで、後ろから力強く肩を掴まれ、私は強引に振り向かされた。
そこにいたのは袴田さんだった。
「袴田さん、もうお願いだから追いかけてこないでください!」
「納得ができません。こんなにも僕はあなたのことを考えているのに。そこを分かってください」
「勝手すぎます!」
「三枝さんだって、僕のことで頭がいっぱいなはずだ。うまく素直になれなかったことを悔やんで泣いているんでしょ?」
私は袴田さんの手から逃げようと必死にもがいた。けれど、振り払っても振り払っても、その手はまとわりついてくる。
「そうだと言ってください!」
「離してっ!」
もみ合いになり、少しずつ両足が後退していく。
あっと思った時にはもう遅かった。右足が階段から滑り落ちそうになり、身体がぐらりと傾いた。
ふりまわしていた手からバッグを離してしまい、それが緩やかな弧を描き、落ちていく。
自分自身の転落の恐怖に体が竦んだ時、違う温かさに腕を掴まれた。
力強く私を引き寄せたのは……樹君だった。
そのまま勢いよく彼の胸元へと倒れこんでも、その体はびくともしなかった。私をしっかりと受け止めてくれる。
そっと彼の手が私の背中に回った。触れている手が微かに震えているのが伝わってくる。
私を包み込む腕に力を込めたあと、樹君は小さく息を吐いた。