イジワル副社長と秘密のロマンス
「千花」
優しく甘やかに名前を呼ばれ、トクっと鼓動が高鳴った。
体が熱くなる。勝手に期待してしまう。この再会の先に、まだまだ樹君との続きがあるのだと。
「……それ、さっき男の子が踏みつけたやつ?」
まだバッグとぬいぐるみを一緒に持ち続けていたため、樹君はそれに気付いたらしい。
樹君はするりと手を離し、代わりに私がずっと握りしめていたぬいぐるみを右手で掴み取った。
「そうだよ。踏まれちゃったやつ」
樹君が縫いぐるみを凝視している。これが何なのか気付いてくれるかななんて、ちょっぴりドキドキしながら反応を待っていると、彼は眉間に深い皺を作った。
「これ……太った黒いクマ?……しかも千花の手作りだよね」
「違うよ! 黒ネコだよ! ネコ! 別に太ってない! ちょっと胴体が太くなっちゃっただけで。もうっ! なんで手作りだっていうところだけ、しっかり当てるのよ!」
「この完成度、普通に考えて売り物じゃないでしょ」
もこもこでふわふわの黒いボア生地を使って作ったそれは、確かに不格好である。自覚はしている。
けど、下手なりに一生懸命やった結果であり、万歳している格好は見ようによっては可愛くもあり、なにより愛情を込めて作ったものなので、ハッキリ言われると傷つく。