イジワル副社長と秘密のロマンス

むしろ、立ち振る舞いや気負った様子が全くないところが相まって、彼が年上の男性に見えてきてしまう。

私と彼は同い年だというのに……差を見せつけられたような気がして、ちょっぴり悔しい。

驚かされたことはまだまだある。店員によると、樹君はつい先日まで日本ではないどこかの国にいたらしい。

昔、彼本人から東京に住んでいることは聞いていた。

だからずっと東京のどこかにいるものだと思っていたのに、それすら違っていたのだ。いつか道端ですれ違うかもなんて夢見ていた自分が恥ずかしい。

樹君の苗字のこともだ。初めて会った時、お互い自己紹介をしたはずだけど、その辺りの記憶は曖昧である。

実家の近くにある北ヶ原という丘の上に、大きな家が建っている。

そこに住んでいる年配の夫婦は牧田(まきだ)さんと言い、樹君は夫妻の親戚の子供で、彼は夏休みをそこで過ごしていた。

苗字は違っていた。そこは覚えている。

覚えているのだけれど……藤城という苗字を聞いても、あぁそうだったとかつての記憶が蘇ることはなかった。

樹君のことは“樹君”として、私の中に定着してしまっていた。

つまり自分は彼のことを何も知らないということだ。なんだか気落ちしてしまう。



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