イジワル副社長と秘密のロマンス
「お願いです! 秘書を続けさせてください!」
樹君の隣に並び出て訴えかけると、彼のお兄さんが眼鏡の奥にある瞳を大きくさせた。突然私が割りこんでいったから驚いたのだろう。
室内は静まり返っている。そして二人とも黙って私を見ている。
言葉を続けないといけない気がして、私は覚悟を決める。勇気を振り絞るように、ぎゅっと拳を握りしめた。
「沢山経験したいんです。店員の目線からだけじゃなくて、もっと深い場所からも、AquaNextを見てみたいんです。知りたいんです。関わりたいんです……最前線にいるお二人の力になりたいです」
途中で少しだけ言葉を詰まらせながらも、樹君のお兄さんに自分の思いをぶつける。
「……あの……出過ぎた口を利いてしまい、申し訳ありませんでした」
相手は来月に社長になる人だったと我に還り、肝を冷やした。速攻で頭を下げる。
「……三枝さん」
樹君のお兄さんがぽつりと呟く声が聞こえた。
頭を下げ続けていると、私の肩に手が乗せられた。樹君の手だった。
彼の温かさに強張っていた気持ちが、ゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
私はやっと顔を上げ、目の前に立つ樹君のお兄さんの目をしっかりと見た。