宛先は天国ですか?



早野先生からもお願いされて、聖也からも背中を押されて。

もうあとはこのメールを送るだけ、なのに、なかなか送信ボタンが押せない。

優柔不断なわたしに、とことん嫌になる。


「…っと、佐川さん、今帰り?」

昇降口で、不意に誰かがわたしに声をかける。

振り返ると早野先生で、ひらひらと小さく手を振ってきた。

それから、パタパタと駆け寄ってきてニコリと微笑む。


「で、ちゃんと仲直りはできた?」

尋ねられ思わず目をそらすと、早野先生は「できてないんだ」と肩を落とした。

呆れて言葉もでないと言いたそうな顔をしている。


「そんなにグダグダしてるなら、わたしが将太を誘っちゃうからね」

そんなことを言って、おもむろにスマホを取り出す。

「9日は金曜日だけど暇だといいなぁ。

確か誕生日だし、美味しいものでも奢ってあげようかなぁ」

頬に手を当てて、ふふっと笑みをこぼし、それからチラッとわたしを見る。

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