宛先は天国ですか?



早野先生は確かにわたしに嫌なことをした。

一度は嫌なことをして、それで謝って、解決して。

そりゃあ嫌な人だったという印象はなくならなくても、その上に重なって、早野先生の良いところが重なって見えて。

いい人でもあったから、振り切ったらもう後ろを向かないところは、すごく尊敬してるから。

…だからわたしは、早野先生の死がこんなにも悲しいのだろう。


人の死とは、それが誰のものであっても悲しいものだ。

それでもこんなにも涙が止まらなくなるほどに悲しいのは、それだけ大切であったから。


また、いつか会えますよね。

きっと、きっと、会えたら幸せだって笑えるように。

…笑えるように、幸せになるから。


「ねえ、将太さん」

トンっと指先が触れ合って、わたしはギュッと握りしめた。

将太さんは少し驚きつつも、優しく握り返してくれる。

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