宛先は天国ですか?



「なんですか?」

わたしの顔を覗き込みながら、将太さんはニコリと微笑む。

わたしはそれを見て、涙でぐしゃぐしゃになった顔を、さらにくしゃっとして笑う。


「…わたし、ちゃんと立派な看護師になりますから、そうしたら将太さんのこと幸せにしますから。

だから、それまで待っててくれますか?」

口角を上げて目を細めると、まぶたに溜まっていた涙がポロッと落ちた。

パチパチとまばたきをするたびにこぼれ落ちていく。


将太さんはすっと目を細めて微笑むと、指でわたしの涙をすくい、軽く拭う。

「幸せにするは、私の台詞ですよ」

それから、ぽんぽんと優しくわたしの頭をなでた。


「もちろん、待ちますよ。…待ちきれないかもしれませんが」

ニコッと笑ってみせた将太さんに、わたしはニヤッと口角を上げた。


「わたしが看護師になる頃には三十路だもんね」

「うるさいですよ」

からかうと、コツンと軽く頭を小突かれた。

それから顔を合わせて、手を握りしめて、思い切り笑い合う。

そうして、わたしたちは、消えかけた煙ののぼる空を見上げた。


…幸せに、生きるから。

< 296 / 302 >

この作品をシェア

pagetop