サヨナラの行方



「和泉くんの気持ちは、なんとなく気づいていました」


「え?」



急に常務がそんなことを言う。

態度に現れていただろうか。

そもそも、常務の前で2人でいたこともないし、話したこともないはずだけど。



「今日もそうですが、亜耶乃のことを1度も名前で呼ばないので」


「あっ……」



あまり意識はしていなかったけど、確かにそうだ。

考えてみれば、1度も呼んだ覚えはない。

名前を呼ぼうとも、呼びたいとも思ったことがなかった。

それどころか、悠月以外を名前で呼んだことはない。

悠月のことは、付き合った当初から呼んでいたのに。

ここにも、知らないうちに現れていたんだ。



「無意識ですか?
最初から、亜耶乃が入る隙はなかったみたいですね」



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