不器用男子に溺愛されて

 みや子ちゃんが思いついたと言った〝良いこと〟。それを教えると言った咲ちゃんはお弁当を食べ終えると社内をうろうろと歩き始めた。

 行くあてがあるのかないのかよく分からないまま歩き続けていた咲ちゃんが、突然ぴたりと足を止めて立ち止まった。

「咲ちゃん?」

 足を止めた咲ちゃんの視線の先を見ると、そこには男子トイレから出てきた森田さんがいた。

 森田さんは、咲ちゃんを見るとぱあっと目を輝かせてまるで子犬のようにこちらへと走ってきた。

「ねぇ、堀川さんの情報くれない?」

「だーかーらー、それは……」

「教えてくれるなら、デート、してあげてもいいよ」

「な、えっ⁉︎ 嘘、本当?」

 森田さんの目が、一段と輝きを増した。

「うん。本当。教えてくれた情報とデートの内容次第では二回目のチャンスもあり得るけど。どう?」

 咲ちゃんのくるりと大きな瞳が森田さんを捕らえる。捕らえられた森田さんは、こくんこくんと首を何度も縦に振り「こんなの断るわけないっしょ!」と満面の笑みを浮かべた。

「はい。それじゃあ、交渉成立ね。それじゃあ、デートの日取りはまた」

「オッケー!それじゃあね、咲ちゃん、小畑ちゃん」

 今までと比べものにならないくらいご機嫌な森田さん。この森田さんの意外にもピュアな好意を手玉に取るなんて、咲ちゃん、恐るべし。

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