不器用男子に溺愛されて
私の隣の席で作業を始めていたはずの咲ちゃんの手先も動きが止まっている。私も、呼吸をすることすら忘れてしまう程に驚いた。
「そこでいつまでも愚痴ってないでさっさと仕事しろ」
そう言い捨てた理久くんが資料を片手にオフィスの出入り口を目指し歩いていく。私と咲ちゃん、それから加奈代さんはしばらくしたあとで三人同時に目を見合わせた。
「聞いた⁉︎」
「今の、何⁉︎」
咲ちゃんと加奈代さんが一斉に口を開いた。
「〝残念だけど、小畑はそれでも俺がいいんだってさ〟だってーー!あいつ、あんなこと言うのね」
少し面白がっているのか何なのか、忠実に理久くんの台詞を再現し、まるで乙女のように高い声を出す加奈代さん。
「いやあ、ちょっとあれは意外すぎる……」
少女漫画みたい、とこれまた乙女な顔をする咲ちゃん。私は、しばらくそんな二人の話を聞いていた。そして、特に何かがあったわけではないが、何か特別なことがあったのかと質問攻めにもあったのは言うまでもない。