不器用男子に溺愛されて
誰なんだろう。一体、どういうことなんだろう。
考えても仕方のないことだけれど、答えが出るはずもないことをひたすらぐるぐると考え続けていたその時。隣で息を潜めていた咲ちゃんがハッとしたような様子で口を開いた。
「まさか、浮気?」
「えっ」
「だって、この方向って……」
咲ちゃんが視線を理久くんの方へと向ける。恐らく、咲ちゃんはこの先は理久くんの家の方向だということが言いたいのだと思う。
全くと言って良いほど頭になかった〝浮気〟という言葉が私の胸に重くのしかかった。
私と咲ちゃんは一言も話すことなく、ただ理久くんと女の人を追った。二人は、やはり咲ちゃんが言った通り理久くんの住むマンションの階段を上がっていく。
「浮気……なのかな」
驚きとショックとで身体の力が抜けた。私は、側に立っていた木の幹に上半身の体重をかけた。
「みや子……」
「もし、そうだったらどうしよう」
理久くんは浮気をするような人じゃない。確かに普段はあんなだけど、それでも、そんな酷いことをするなんてあり得ない。
だけど、もし、そうだったら。
そう思うと私の目には温かい涙が溜まり、視界はどんどんぼやけていく。