不器用男子に溺愛されて
「みや子、ちょっと来て」
「えっ」
ぽとり、と頬を伝った涙が顎あたりから落ちていく。ただ涙を流し突っ立っている私の腕を引いた咲ちゃんは、何故か来た道を戻り始めた。
来た道を戻り、また会社の前までやって来た私と咲ちゃん。すると、咲ちゃんは携帯を取り出し、それを耳に当てると誰かに電話をかけ始めた。
「もしもし? まだ中にいるでしょ? ちょっと急いで下まで降りてきて。お願い。うん、ありがとう」
じゃあ、と言って咲ちゃんが電話を切った。私は、誰に電話をかけたのだろうと考えながら、溢れてくる涙を服の袖で拭っていた。
ふう、はあ、と大きく深呼吸をして涙が止まるようにと上を向く。そうしていると、開いた会社のドアから走ってきたのか少し息の乱れた森田さんが出てきた。
「咲ちゃん、小畑ちゃん、どうしたの」
「ちょっと、あんた、どういうことなの⁉︎ 堀川さんの情報、ちゃんと回しなさいって言ったじゃない!」
「えっ⁉︎ ちょ、何? え?」
既に走り疲れている森田さんへと咲ちゃんが迫った。咲ちゃんは至近距離まで森田さんに近づくと、まるでメンチでも切るかのように森田さんを睨みつけている。