不器用男子に溺愛されて

 正直、彼女である私よりも可愛がられているミャーコに妬けてしまうが、動物に妬くなんて自分が情けない。

 そんな、動物に妬いてしまう情けない私がいつも思っていることがある。それは、理久くんが私の事を名前で呼んでくれないということ。会社でもプライベートでも、いつも名字呼び。付き合い始めて半年が経ったのに変わらない名字呼びは、やはり少しだけ悲しい。

「ちょっとだけミャーコ見てて」

「あ、うん」

 理久くんの膝の上にいたミャーコが、彼の手により私の膝の上へと乗せられる。私は、そんなミャーコの頭をわしわしと撫でながら返事を返した。

 部屋を出てキッチンから物音を立てている理久くんが何をしているのかな、なんて考えながら私はミャーコを構い続けた。

「ミャーコはいいなあ、可愛がってもらえて。私もミャーコになりたい。一日だけ代わってくれない? だめ?」

 仰向けで私の足の上に寝転がるミャーコのふくよかなお腹をつんつんと人差し指で触る。

 ミャーコと一日だけでも交代することができたら、それはもうとても幸せだろうなぁ、なんて、私は真剣に考え続けた。

「ミャーコ」

 くだらない願望を夢見ていると、部屋に戻ってきた理久くんがミャーコを呼んだ。理久くんの声にすぐ反応したミャーコは、理久くんの足元にすぐさま移動すると、理久くんがフローリングの上におろしたキャットフードを頬張り始めた。

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