王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

マクシムがドアの上枠に手をかけ、既に遥か後方の路上に倒れているルザを振り返る。

それから上機嫌な口笛を軽い音で鳴らした。


「予定より上手くいったな。あいつ強そうだからさ、どうしようかと思ってたんだ」


マクシムの片腕に捕らえられた王女は、憤怒の表情で彼をふり仰ぐ。


「なにをするの! 馬車を戻しなさい!」


彼女が怖がったり泣き出したりする様子をちっとも見せないので、マクシムは多少面食らったが、それでも彼らの成功に変わりはない。

屈強な兵士を振り切り、王女を手に入れた隊商の勝ちだ。

ラナは彼の腕から逃れようと必死に暴れているが、か弱き乙女がふたり束になってかかったところで、男の力には敵わないだろう。

それに数を言うなら、馬車の中にはマクシムの味方がもうひとりいた。

マクシムは慣れた手つきでラナの腕を捻り上げる。

彼に右肩を掴まれ、まだ傷が完全に癒えないラナは苦痛に唇を歪ませた。


「まあまあ、頼むから俺を恨まないでくれよ。言っただろう、俺たちは商人なんだ。スタニスラバの王女を高値で買い取りたいってお客がいるのさ」


ラナはハッとして息を飲む。

マクシムたちの隊商は、この大陸を東から西へ移動しているはずだ。

おそらく彼らは、ナバを訪れる前に東の帝国を通っている。

(それならこれは、バルバーニ帝国の罠なのね)

狙われているとわかっていたのに、まんまと手に落ちてしまった自分が情けない。

ラナの瞼には彼女を心配する王子の姿が浮かんだ。

けれどラナは、こうしているうちにもどんどん彼から遠ざかっている。

隊商の馬車は城下町を駆け抜け、王太子の婚約者をまんまと手に入れて、やがてナバの王都を脱出した。
< 108 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop