王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
しかし王女はたったひとりの男と再会するという望みのために、その青い海のような目に浮かぶきらめきを決して沈ませることはなかった。
というよりも、大の男ですら足を踏み入れることを躊躇う峡谷も、ラナにかかれば彼女の豊かな好奇心の餌食である。
畏怖の対象となる峡谷の大自然も形無しだ。
(素敵だわ。私は今きっと、ガフ・キャニオンの中を歩いているのね)
空気の隙間を漂う太陽の息吹はきらきらと輝いて見えたし、彼女の背を押す大きな風は歌い囁いているように聞こえた。
ラナは赤い土の壁の迷路を進みながら、ナバの城下町で聞いた火竜と妖精の伝説を思い起こしていた。
このガフ・キャニオンのどこかにある洞窟に、とっても獰猛な火竜が住んでいるのだという。
金髪の妖精のシャナという乙女は、強引な求婚者に追われ、火竜の巣食う洞窟の中へ逃げ込んだ。
そしてそこで火竜と妖精は恋に落ち、生涯を共に暮らすのだ。
峡谷を駆ける風の音色は、きっと彼らが幸せを歌う声ではないかと、ラナは思った。
(火竜が住むという洞窟は、どの辺にあるのかしら)
ラナは自分の置かれた状況を忘れけるほどガフの神秘と伝説にうっとりとしていたが、その風の音に乗って馬の蹄の音が聞こえてきたので、ハッとして辺りを見回した。
まだ姿は見えないものの、かなりの数の馬がこちらへ向かってきているようだ。
(ぼうっとしていてはいけないわ。私こそ追われているのだった)
捕まればアルベルトにどんな目に合わされるかわからないし、今度こそフベルトスにはあの男の11人目の側室にされてしまうかもしれない。