王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

マクシムたちは皆、その小さな足音を聞きながら笑っていた。

自分を誘拐した者たちに礼を言い、『また会いましょう』だなんて随分変わり者の王女だ。

だけど隊商の男たちは、みんなこの王女のことが気に入ってしまった。

兵士たちが少しでも長く彼女に気づかずにいるよう、最後まで木箱の周りを動かなかった。

荷物を片っ端から丁寧に点検していたバルバーニの陸軍兵士は、ようやく隊商の者たちがたむろする辺りに手をつけ始め、不自然な空の木箱を見つけた。

箱の縁には細い金色の糸が一本引っかかっている。


「この箱の中身はどうした」


マクシムは笑って答える。


「食べちまったよ。俺たちゃみんな腹が減ってたんだ」


壮年の兵士は木箱の後ろに続く微かな足跡に目を留めると、虚偽の申告をした隊商の若頭を殴り飛ばした。

そして部下たちに向かって声を張り上げる。


「王女は北へ逃げたぞ! ガフ・キャニオンの中だ!」




■5■


太陽は天高く昇り詰めた。

燦然と降り注ぐ日の光が大地を焼き上げ、ガフと呼ばれる巨大な峡谷を吹き抜ける風は、薄い衣を纏い、肩に古びた布一枚をかけただけの姿でさまよう少女を容赦なく追い立てる。

セレナ街道の脇の林を北上したラナは、黄緑色の葉を振る木々の間を抜け、いつの間にか土の壁の谷間に迷い込んだ。

どこへ行っても迷路のように入り組み、方向感覚は入ってすぐに失ってしまった。
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