王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

ラナだって、なにもこの先に幸せな新婚生活が待ち構えているとは思っていない。

自分が愛する夫との甘い蜜月を望める立場にないということを、彼女はずっと昔からわかっていた。


「そうね。できれば、親切なお方がいいわ。でもまずは王太子妃としてちゃんと務めを果たして、疎ましい妻だとは思われないように努力するつもりよ。勉強をして、お裁縫をして、お茶会を開いて夫を支え、それから王子を育てなくちゃ。きっと忙しくなるわね」


ラナは声を弾ませて妃としての毎日を想像する。

もともと数多いる海兵のひとりだったヴィートは、昇格するに従って王宮に出入りすることが増え、彼に懐いた幼いラナにたくさんの冒険話を聞かせてくれた。

そのラナもようやく、自分の冒険をスタートできるのだから。

彼にはこの晴れやかな出立のときに笑顔でいてほしい。

しかし彼の昂然たる面構えは相変わらず険しく、和むどころか眉間の皺が一本増えてしまった。


「ラナ様を疎ましいなどと、そんな無礼なことを申す輩なればこのヴィートが黙っていないというもの。世界最強のスタニスラバ海軍を引き連れ、必ずやお迎えにあがります」


ラナはとうとう拗ねて頬を膨らませる。

(みんな私が不幸になると思っているのね。命じられて結婚して、知らない国でひとりぼっちになるから)

国王もヴィートも兄たちも、ラナを目の届かないところへ嫁がせるのが嫌で仕方なく、内心では彼女を自分のものにする男を呪う日々である。
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