王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
エドワードが両手を伸ばし、大きな手のひらでラナの頬を挟み込んだ。
ラナがどんなに拗ねたってその気になったエドワードに敵うはずもなく、ぐいっと強引に顔を上に向けられる。
そしてラナが抗議の声を上げる前に、背の高いエドワードが腰を折り、彼女の小さな鼻にパクッと噛りついたのだった。
ラナは大きな目をこれ以上ないほど見開く。
「なっ!」
怒りなのか照れなのか、ラナの顔がボッと熱をもった。
至近距離に迫った翡翠色の瞳はイタズラっぽい輝きを放ち、鼻先の生クリームを奪った舌が彼の形のいい唇をぺろりと舐める。
「悪いが、俺はきみの拗ねた顔も好みなんだ。もっと反抗してみせろ」
エドワードの低い囁きに、ラナは目を白黒させるしかなかった。
触れられた頬が火をつけられたように熱く、心臓が経験したことないほど忙しなく脈打っている。
エドワードにジッと覗き込まれて思うのは、ラナが決して彼を嫌いではないということだ。
初対面のあの馬車での彼女とは違って、傲慢な物言いをするエドワードの本質を知っていたし、彼を拒絶したいとも思っていない。
彼の妻になることに文句はなかった。
それなのに、彼のものになることを受け入れられないのはなぜなのだろう。
ラナはエドワードの正妃になるからこそ、こうして彼と共にいる。
それならエドワードは自分で選んだあのデイジーという女性の前で、いったいどのような顔を見せるのだろうか。
(私が殿下の物になりたくないと思うのは、私が政略結婚で彼に与えられる妃だからなのかしら。誰かにもらったお花やお菓子のように、彼の溢れ返る所有物のうちのひとつになってしまうから)
家柄や政略のために決められる正妃とは違って、公妾とは王が自ら純粋に求めるものだ。
エドワードも、いつかはそうして誰かを選ぶということを知ってしまった。
世界中でラナ以外の女性ならば、みんなが彼に選ばれる権利を持っている。
けれど、それを言っても仕方のないことだ。
ラナにはそのモヤモヤした感情の出所がわからなかったので、どうしたら彼女の悩みが解消されるのかも、ちっとも見当がつかなかった。