王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

エドワードが両手を伸ばし、大きな手のひらでラナの頬を挟み込んだ。

ラナがどんなに拗ねたってその気になったエドワードに敵うはずもなく、ぐいっと強引に顔を上に向けられる。

そしてラナが抗議の声を上げる前に、背の高いエドワードが腰を折り、彼女の小さな鼻にパクッと噛りついたのだった。

ラナは大きな目をこれ以上ないほど見開く。


「なっ!」


怒りなのか照れなのか、ラナの顔がボッと熱をもった。

至近距離に迫った翡翠色の瞳はイタズラっぽい輝きを放ち、鼻先の生クリームを奪った舌が彼の形のいい唇をぺろりと舐める。


「悪いが、俺はきみの拗ねた顔も好みなんだ。もっと反抗してみせろ」


エドワードの低い囁きに、ラナは目を白黒させるしかなかった。

触れられた頬が火をつけられたように熱く、心臓が経験したことないほど忙しなく脈打っている。

エドワードにジッと覗き込まれて思うのは、ラナが決して彼を嫌いではないということだ。

初対面のあの馬車での彼女とは違って、傲慢な物言いをするエドワードの本質を知っていたし、彼を拒絶したいとも思っていない。

彼の妻になることに文句はなかった。

それなのに、彼のものになることを受け入れられないのはなぜなのだろう。

ラナはエドワードの正妃になるからこそ、こうして彼と共にいる。

それならエドワードは自分で選んだあのデイジーという女性の前で、いったいどのような顔を見せるのだろうか。

(私が殿下の物になりたくないと思うのは、私が政略結婚で彼に与えられる妃だからなのかしら。誰かにもらったお花やお菓子のように、彼の溢れ返る所有物のうちのひとつになってしまうから)

家柄や政略のために決められる正妃とは違って、公妾とは王が自ら純粋に求めるものだ。

エドワードも、いつかはそうして誰かを選ぶということを知ってしまった。

世界中でラナ以外の女性ならば、みんなが彼に選ばれる権利を持っている。

けれど、それを言っても仕方のないことだ。

ラナにはそのモヤモヤした感情の出所がわからなかったので、どうしたら彼女の悩みが解消されるのかも、ちっとも見当がつかなかった。
< 44 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop