王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
と言うより、もう強がる意味がわからなくなってしまったのだ。
こういうとき、婚約者の前でどんな仮面を選ぶべきなのか、父は教えてくれなかった。
口の達者なラナが急に黙り込んでしまったので、エドワードは不思議に思って彼女に向き直る。
それからギョッとして目を丸くした。
ラナの海のような瞳に、涙の幕が波を打っている。
初対面のエドワードが乱暴に叱りつけても、泣き出しそうな様子など微塵も見せなかった彼女が。
ラナは小さな女の子のように唇を噛み締め、泣いてしまわないようにグッと眉間に力を入れていたので、彼女の丸い頬にまだ涙は伝っていない。
きっと、エドワードには泣いている姿を見られたくないのだろうと彼は思った。
それに、実際ラナの涙を目にしてしまったら、エドワードはたぶん平静ではいられない。
彼はサッと目を逸らしてソファから立ち上がった。
「ハサンの件はともかく、今回きみは留守番だ。くれぐれも城を抜け出そうなんて考えるなよ」
ラナだって一度は、王都に残ってエドワードを見送ることを了承してくれたのだ。
それなのにいったいなにが、彼女をあんなに寂しそうな表情にさせてしまったのだろう。
婚約者を得ても相変わらず乙女心を解さぬエドワードは、首を捻りながら王女の部屋を後にしたのだった。
■2■
「それで、そのまま放ってきてしまったのですか? とんだヘタレ野郎だな。私は殿下のその娘心への鈍さに驚いていますよ」
ライアンの呆れ返った視線に、心当たりのあるエドワードは文句も言えない。
執務室で大量の書類を前にし、手が止まってしまっていた。