王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

と言うより、もう強がる意味がわからなくなってしまったのだ。

こういうとき、婚約者の前でどんな仮面を選ぶべきなのか、父は教えてくれなかった。

口の達者なラナが急に黙り込んでしまったので、エドワードは不思議に思って彼女に向き直る。

それからギョッとして目を丸くした。

ラナの海のような瞳に、涙の幕が波を打っている。

初対面のエドワードが乱暴に叱りつけても、泣き出しそうな様子など微塵も見せなかった彼女が。

ラナは小さな女の子のように唇を噛み締め、泣いてしまわないようにグッと眉間に力を入れていたので、彼女の丸い頬にまだ涙は伝っていない。

きっと、エドワードには泣いている姿を見られたくないのだろうと彼は思った。

それに、実際ラナの涙を目にしてしまったら、エドワードはたぶん平静ではいられない。

彼はサッと目を逸らしてソファから立ち上がった。


「ハサンの件はともかく、今回きみは留守番だ。くれぐれも城を抜け出そうなんて考えるなよ」


ラナだって一度は、王都に残ってエドワードを見送ることを了承してくれたのだ。

それなのにいったいなにが、彼女をあんなに寂しそうな表情にさせてしまったのだろう。

婚約者を得ても相変わらず乙女心を解さぬエドワードは、首を捻りながら王女の部屋を後にしたのだった。




■2■


「それで、そのまま放ってきてしまったのですか? とんだヘタレ野郎だな。私は殿下のその娘心への鈍さに驚いていますよ」


ライアンの呆れ返った視線に、心当たりのあるエドワードは文句も言えない。

執務室で大量の書類を前にし、手が止まってしまっていた。
< 52 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop