王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
彼女はちゃんと泣き止んだのだろうか。
エドワードは理由も説明せずウジウジと泣く娘が嫌いだったが、少なくともラナのことはそうは思わなかった。
本当は今すぐにでもラナのところへ戻って様子を見てきたかったけれど、急遽辺境地への視察が決まった王子にはまだ仕事がたくさん残っている。
どうしてラナが一度挨拶を交わしただけのデイジーにこだわっているのか、一緒にキャンベルへ行けないことをあれほどまでに悲観するのか、エドワードにはちっとも見当がつかなかった。
「ハサンのことは、大方侍女か家庭教師にでも聞いたのでしょう。隠すことでもないのですから、教えて差し上げればよかったのに」
「俺だって望まれれば答えるさ。でも彼女が訊かなかったんだ」
ラナのことが気になって仕方がないエドワードは、この際一旦目の前の書類を放り出すことにし、頬杖をついて窓の外に視線をやった。
彼の執務室は城門から見て正面の右端につくられていたので、そこからは内郭の庭や城壁や離れたところにある城下町の跳ね橋などが見て取れる。
エドワードはふと、内城壁の城門塔の上に立つ、頼りのない背中に気がついた。
オーロ海に浮かぶ強国の王族を示す木賊色のマントを羽織った彼女は、まだエドワードの手に入りそうもない。
「どうせ殿下がまたなにか、ぶっきらぼうな物言いをなさったのでしょう。そんなことではラナ様に好かれることは叶いませんよ」
本棚を整理しながら古い資料を探しているライアンは、悪いのはエドワードのほうだと決めつけているようだ。
「べつに好かれる必要はない。俺たちは互いに良き王と妃になる。ただそれだけのことだ」
「はあ、左様でございますか。それなら私が、ラナ様をいただいてもよろしいのですか。私はそういうことにかけては、殿下と違って腕利きと自負しておりますが」
エドワードはびっくりして窓から目を離した。