王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「エディ!」
職務に忠実な側近が、近衛師団の副団長になってから初めて、人の目のあるところで王子のことを友人としての愛称で呼ぶ。
そのとき、屋敷の角にある厩へ向かおうとしていたエドワードの背後で、悲鳴に近い女の声が響いた。
「エドワード様!」
エドワードは驚いて振り返る。
それと同時に、彼の腕の中に華奢な女性の身体が飛び込んできた。
木賊色のマントのフードがはらりと落ちる。
彼の胸にもたれかかり、崩れるように膝を折った少女のプラチナブロンドの髪が、フードから溢れてふわりと広がった。
「お前……! なぜここに」
エドワードはラナを抱きとめ、力の抜けた彼女の身体を抱えて座り込む。
我を失うほどの焦燥に駆られて探し求めた婚約者が、今彼の腕の中にいる。
エドワードは一瞬安堵して胸を撫で下ろしたが、ラナの背を抱いた手のひらに生ぬるい感触を覚え、ゆっくりと視線を動かして自分の左手を見た。
そこには濃い色の血のりがべっとりとついている。
木賊色のマントの背中は、黒に近い血の色に滲んでいた。
「ラナ?」
エドワードはなにが起こったのか理解できないまま、腕の中で震え始めた頼りない身体を抱き起こす。
庭の門の前にいたライアンが閃光のような速さで飛んできて、血のついた短剣を持った麦わら帽子の男を取り押さえた。
ラナはエドワードを庇ってあの男に刺されたのだ。
彼女の右肩には、大量の出血が認められる。