王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
騎士たちが突然慌ただしく動き始めたので、前庭にいた村人たちも皆、何事かとざわつき始めた。
城でなにかあったのだろうかと、デイジーも不安に思う。
彼女がエドワードに理由を聞こうと一歩踏み出したとき、デイジーの横をすり抜けて麦わら帽子の男が王太子のほうへ近寄っていった。
エドワードはただラナのことだけを考え、近衛兵が持ってきたインディゴブルーのマントを被る。
どうして自分は彼女をキャンベルへ連れて来なかったのかと、そればかりが頭を過った。
いくらラナがお転婆な王女でも、黙ってひと晩も姿を眩ませるはずがない。
キティやルザはどうしたのだろう。
ラナがギルモア公国の港へ着いたときだって、彼女を連れ去ろうとした者たちがいたではないか。
彼女が狙われていることはわかっていた。
だから内城壁の中へ閉じ込めるようにして置いてきたのだ。
しかしエドワードはなぜ、彼が不在の城にラナを残して、安心だなどと思えたのだろう。
「エドワード様、お待ちください。まだお耳に入れていないお話が……」
墓地から走って王子を追いかけてきたライアンは、庭を右往左往する村人とぶつかってよろめいた。
「ああ、これはすまない」
相手が転んで地面に尻餅をついてしまったので、かがんで手を差し出す。
ライアンは村人を引き起こしてから、顔を上げて旅支度をする主人のほうに視線をやり、目に飛び込んできた光景に息を飲んだ。