ファインダー越しに、その世界を殺して。
「大根と厚揚げの炊いたん、賀茂なす田楽、かぶらの甘酢漬け、鱈の子の甘辛煮付け、今ある材料だとこれくらいしか出せないけど食ってけよ」
湯気にあてられ、ほうと息を呑む女の前に並べたおばんざいは申し訳ないが昨日の残り物だ。
白米だけは炊きたてでほかほかと艶やかに茶碗によそわれているが、それ以外はタッパーに詰めておいたもの、ラップに包んで置いておいたものを、新たに電子レンジで温め直し、火にかけられるものはもう一度さっと熱を通し小鉢に移しただけだ。
正しくは俺の今夜の夕飯にするはずだったものだ。
今日買い出した卵諸々は明日の仕込みに使うため既に冷蔵庫の中に入れてある。因みに俺の踏ん張りにより卵は無事だった。
軽く冷蔵庫を整理しながらスーパーに並ぶ今が旬だと謳われる大粒いちごを思い出したが、そろそろ実家から送られてくるはずなので買わなくて正解だっただろう。
「………」
「今日休業日だからこのくらいしか出せないけど、お前みるからにあんま食ってなさそうだしほっとけないだろ。女の子なら鉄分摂れよあとカルシウム」
「女の子って歳じゃない……身長の話はするな。諦めてる」
先ほどまでおばんざいを微笑ましく見ていた眼光がきっと強められコンプレックスなのか身長の話題は御法度のようだ。
「これ撮っていい?」
「え?」
「すごく美味しそう。だから残しておきたい、料理にカメラを向けるのは悪いことか?」
何が楽しいのか女という生き物はやたら食べ物を撮りたがることは知っていた。
ラズベリーソースと生クリームにデコレーションされたパンケーキだのなんたらうんちゃらフラペチーノだのを見ては「可愛い~もったいなくて食べられな~い」なんて言いながらスマホを構えるのだ。
そしてペロリと平らげる。もったいなくて食べられないんじゃなかったのか。そもそも食べ物に可愛いとはなんなのか。謎である。
しかし今目の前にいる女が見ているのはおばんざいだ。
自分で言うのもなんだが彩りも盛り付けも撮って楽しめるものとは思えない。
そして女の手元にあるのはプロ仕様の大層なカメラで、お遊び気分のフォトアプリとは訳が違うことを主張する。
本気で俺の料理を撮りたいと思っているのか。写真に残したいと思っているのか。もう少し豪華な器によそってやればよかったと後悔するくらいには正直、嬉しかった。
「お、おう大した彩りじゃなくてもよければ、」
「アンタと一緒に」
「へ?」
「アンタと一緒に」
ぽかんと口を開ける俺を他所に女は今にも撮りますとばかりにファインダーを覗き込む。