呆れるほど恋してる。



久々に聞く彼の声はひどく懐かしかった。


優しくて、柔らかい声。


「……」


「せりさん?もしもし?」


「あの……」


「うん」


「ごめんなさい。あの時は、ひどいことばかり言って」


「ううん。俺も悪かったと思うし」


「……ありがとう」


「いえ、こちらこそ」


「……」


「……」


沈黙が続く。


お互いに次の言葉を探していた。


会いたい。


どうしても会いたい。


そんな気持ちがこみ上げる。


あの手に、あの腕の中に入っていきたい。


でもそんなことを言ってしまって本当にいいのだろうか。


「せっかく連絡くれたのに、遅くなってごめんね」


順の言葉に「大丈夫です」と答える。


「せりさん……」


「……」


「今夜、会えないかな?」


話したいことがあるんだ、という彼に「今夜だと到着が遅くなってしまう」と伝えた。


今仕事の人と一緒にご飯を食べていると。


「いいよ。待ってる」


「……」


「ただ、俺今仕事が手放せないから俺の家に来てもらうことになるけど、大丈夫?」


「……」


「嫌だったら無理はしないで、せりさん」


「嫌じゃ……ないです」


食事が終わったら連絡しますと伝えると「わかった。タクシーでおいでね」と言って彼は電話を切った。


席に戻ると頼んだ料理がテーブルの上に並んでいる。


「食べないで早く帰りたいって顔してる」


健が苦笑いをしながらせりに言った。


「そんなことないですよ。小籠包楽しみです」


「早めに今夜は切り上げてあげよう」


そう言うと、彼は自分のジョッキをせりのジョッキにカチンと合わせた。


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