クールな公爵様のゆゆしき恋情
信じられません。あの時男性に絡まれていた女性はごく普通の町の住人に見えましたから。
あんなに恐そうな人達と仲間だなんて。

ですが、あの女性は確かに私達を気遣う様子も無く必死に逃げ出しました。もしアレクセイ様のおっしゃる通りだとしたら……。

「そう分かっていたのなら、なぜアレクセイ様はあの女性を助けたのですか?」

仲間内での諍いなら、無理をして止める必要は有りませんでした。

「あの時、俺がそう言って止めたとしても、ラウラは納得してあいつらを放っておいたか?」

「それは……」

答えられませんでした。多分私はあの緊迫した場面でアレクセイ様の言葉を聞き入れなかったと思うのです。
アレクセイ様はそれを見越していたのでしょうか?

「ラウラは俺を信用していないからな」

「そんな事は、有りません」

自分の国の王子を、協力するべきフェルザー公爵を信用しない訳にはいきません。

「無理するな。ラウラは立場上そうでなくてはならないって頭で思ってるだけだ。心では信じていないって事は見ていれば分かる」

アレクセイ様に本心を言い当てられ、私は気まずさに目を逸らしました。

確かに私は王子として、公爵としてのアレクセイ様を信用はしていますが、個人としてのアレクセイ様を信じる事は出来ませんから。

だからと言って、素直に本心を伝えはしません。

「……アンテス辺境伯の娘としてフェルザー公爵となったアレクセイ様を信用しない訳には行きません。これからは非常時であってもアレクセイ様のお言葉を蔑ろにしたりは致しません」

なんとかそう告げると、アレクセイ様の溜息が聞こえて来ました。

私はまた機嫌を損ねてしまったようです。
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