クールな公爵様のゆゆしき恋情
私の放っておいて欲しいと言うお願いを聞いてくれたのでしょうか。

アレクセイ様がそれから何か言う事は有りませんでした。
ただ、その場から離れる事は無く、少し距離を置いて私が落ち着くのを待っていてくれた様です。

時間が経ち涙が止まり落ち着くと、私は今度は血の気が下がる思いになりました。

何て言う事をしてしまったのでしょうか。王族でフェルザー公爵のアレクセイ様を怒らせる様な事をしてしまいました。

アンテス家の娘として、絶対にやってはいけない事でした。
私個人としても、この場から消えてしまいたい程の醜態を晒してしまい、果てしなく落ち込んでしまいます。
あんな風に感情的に泣いて取り乱すなんて。

今日のアレクセイ様に非は有りません。私の心の問題なのですから、悲しいのならお城に戻って一人になってから泣くべきだったのです。

後悔に苛まれながら、私は勇気を出してアレクセイ様に声をかけました。

「アレクセイ様。あの、申し訳有りませんでした。私本当に失礼な事を言ってしまいました、どうかお許し下さい」

声が震えてしまいます。アレクセイ様はそれでも私の言葉を聞き逃さなかった様で、芝から立ち上がり近付いて来てくれました。

「謝らなくていい。俺が無神経だったんだと思う」

私は目を瞠りました。

「そ、そんな事は有りません、私が未熟で取り乱してしまっただけなのですから」

「もう気にしなくていい。それよりもう大丈夫か?」

驚く事にアレクセイ様はあんな無礼を責める気は無い様でした。それどころか気遣ってくれています。

アレクセイ様が“私とやり直す“とおっしゃた決意が本当だからでしょうか?


「立てるか?」

アレクセイ様が芝に座ったままの私の様子を窺う様に言いました。

「……はい」

立ち上がろうとすると、アレクセイ様の手が遠慮がちに差し出されました。

戸惑いながらも私はその手に自分の手を重ねます。するとアレクセイ様は強い力で私を引っ張り立たせてくれました。

「そろそろ帰らないと騒ぎになる。少し急ぐが大丈夫か?」

言われて見れば辺りは薄暗くなって来ています。西の霊峰の方向に目を向ければ大きな朱色の夕日が沈んで行くところでした。
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