クールな公爵様のゆゆしき恋情
「リュシオン、アレクセイ様がフェルザー公爵だと言う事を知っていたのですか?」

前置きも無く切り出すと、リュシオンが気まずそうに視線を逸らしました。
それから姿勢を正し、頭を下げて言いました。

「ラウラ姫にフェルザー公爵との婚約の件をお伝えした時には、既に存じ上げておりました。騙す様な形になり申し訳有りません」

リュシオンに本当の事を言って貰えなかった事に少し傷つきましたけれど、仕方が無い事だと分かっています。

「私に言うなと、お兄様の命令だったのですよね?」

リュシオンは頷きませんでしたが、間違いないでしょう。

人を驚かすのが趣味のお兄様なのですから。私がフェルザー公爵と対面した時の事を想像して楽しんでいたに違いありません。

「お兄様の悪戯にも程が有ります。こんな事まで驚かそうとするなんて」

不満を零す私に、リュシオンは宥める様に言いました。

「レオン様は悪戯に隠しておられた訳では無いと思います」

「リュシオンはそう思うのですか? 今までのお兄様の悪戯を思い出すと私にはそうは思えませんが」

「過去の事は否定出来ませんが、フェルザー公爵の件については深い考えが有っての事かと思います」

「深い考えって……どうしてそんな混乱させる様な事をするのでしょうか」

お兄様が分かりません。本当に深い考えなど有るのでしょうか? 特に今はエステルとの結婚で浮かれていたはずですし。

首を傾げる私に、リュシオンは温かい笑みを浮かべて言いました。

「ラウラ姫を大切に思っているからです」

それは……否定は出来ません。なんだかんだ言ってもお兄様は家族想いですから。

「リュシオン、私に……」

「ラウラ、何をしているんだ!」

秘密にした理由は何だったのですか? と聞こうとした私は、それより前に発せられた言葉で、口を閉ざしました。

慌てて声をした後ろを振り返ります。そこには顔を強張らせたアレクセイ様が居て、私とリュシオンを冷たい目で見据えていました。

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