溺愛〜ラビリンス〜
「ばたる、ぶざげんだ!」
口にナポリタンを沢山頬張った爽くんは、上手く喋れなくて変な言葉を発していた。
「爽食うか喋るかどっちかにしろ。行儀が悪いだろうが!」
渉くんは振り返って爽くんを怒る。そしてまた歩き出した。
「爽くん、ごめんね?先に行くけど、ゆっくり落ち着いて食べて?」
私は爽くんにそう声をかけると、爽くんはフォークを持っていない左手を小さく上げたので、安心して渉くんに続いた。
喫茶室を出て廊下を渉くんと二人歩いた。廊下はあまり賑やかではなく、疎らに人がいて時々すれ違う程度だ。
私と渉くんは会話もなく黙って歩いた。
すると突然、渉くんが立ち止まった。
「柚ちゃんごめんね?爽が騒々しいから二人で来たんだけど…アイツはまったく…」
渉くんの言葉は呆れ半分、怒り半分のような声音だった。
「渉くん…私は別に全然平気だから、爽くんと仲良くして?」
私がそう言うと、渉くんは困ったような表情をしてため息を吐いた。
「ハァ…ごめんね。柚ちゃんに気を使わせちゃったね?」
私は渉くんの言葉に無言で首を横に振った。