好きになるまで待ってなんていられない


はぁ、何だか可哀相だけど。今ここでそれは思ってはいけない。情に絆されてはいけない。

ここでいいですから、と玄関先で挨拶をして帰る。
抱きしめる事も、ましてキスもしない。しては大変な事になる。そこは弁えている。
もどかしそうな社長は社長の顔に戻りつつあった。

これでいい。



バスに揺られながら窓の外を眺めていた。
特に今日の事、打ち明ける事はないのかも知れない。
ドキドキする相手であって、関係は持ってしまったけれど、束縛される言葉は何もない。…まだ。ドキドキしてるだけ。

…好意は持ってくれているのだと、少々自分の期待を込めて思っている。
そうじゃないなら、しない。あんなに関わって来たりしないだろうと思いたい。
決定的な言葉は言わないで、曖昧な関係でいたいのかも知れない。…フィーリングのみなのかも知れない…。

…そう言えば…何も知らない。

社長の事も殆ど知らないまま長年過ごしているけど、あいつの事はもっと知らない。名前さえ知らない。
聞きもしないが聞いても来ない。それでも不自由していない。
あんたって呼ばれるのに慣れ過ぎたのかも知れない。
思えば…あんたって、ちょっときついよね…。

ん〜…養子である事、煙草を好む事、それから…モモンガ整体院、医師免許を持った整体師。
家が大きい、車の運転が上手い…これは余談かな。
このくらいの事かな、知ってる事って。あ、後、いい男っていうのもあるか…。

あ、次でもう降りなきゃ。

「降りま〜す」

思わず声に出た。慌てて降りますボタンを押した。危ない、乗り越すところだった。

乗り物に乗ってしまうとやはり近いものね。
…考え事もしてたし。あっという間に着いてしまった。


コツン、コツン…。
ん〜。
さっき迄あんなに作ったのに、自分はまたこれから何か作らないと駄目なんて…。正直疲れたよ。
…冷凍餃子、焼いちゃおうかな。

…ん?
密閉空間でもないのに、ドアの辺り、何となく煙草の匂いがする気がした。
…それこそ気のせいね。

平日ではない。土曜の夕方に来たりはしないだろう。

クンクン…。
だけどやっぱり匂いがする気がする。

まあ、…とにかく中に入ろ。…疲れた。
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