好きになるまで待ってなんていられない
「冷めてるけど案外目茶苦茶情熱的なんだぞ?灯に対してだけだけどな」
…。
「灯…」
頬に手を当てられた。…ん、ん。唇が触れ、少しずつ食む。
「ん゙、慶而君、…駄、目、よ、本当に…」
「ん…軽いのも駄目か?」
「…軽く無い。駄目。キュッてなるから、本当に駄目…」
…灯、俺に感じるって事だよな。
「こんな急に、妊娠したから終わりにしようなんて、そう都合よく大人になれるかってんだ。
そうだろ?気持ちは理屈ではスパッと切れない」
それは…解る。現に私だって理屈で直ぐ大人の対応が出来るか解らない。
出会ってから慶而君とこうなった事が早過ぎて…まだ期間も短くて…。優柔不断だと思われても…ドキドキして、きっと妊娠が無ければ、私は…心のままフラフラしていた…。
「だから暫くは中断って事だ。そう思う事で、社長さんにもメラメラしなくて済む。
男は強い…かも知れないが、実は弱いんだ。世の中の男の名誉の為に…俺はって事にしておくけど。自分を夢中にさせる女が居て男は生きているようなもんだ。あ、これも、俺はって事だ」
社長さんだって、虚しいと思っても婚姻生活をズルズル続けるしかなかったんだ。嫌いで結婚した訳じゃなかっただろうし。疑ってなければ、若い時は見抜けないもんだ。だけど…その虚しさの救いは灯だったんじゃないのかな。表面上、家庭を守り心は灯に。灯と出会って惹かれた。灯の存在があったから、父親として居られたんだ。
「なあ、灯。もう今日がボーダーラインになるのか?」
「え?」
「…明日になったら…もう何もしちゃいけないのか?」
「何もって、慶而君…」
「お腹…、キスしたら、子宮がギュッてなるって、それって俺を好きって事?」
「慶而君…」
「だったら感じないでキスするって無理?」
ん、…。また唇を軽く触れさせた。感情のコントロールが出来ないからだから駄目なのに。勝手に感じてしまうから。
煙草も珈琲も、何の香りもしない。抱き直された。
「はぁ…俺しつこいな…。だけど仕方ないだろ?どこにも触れない…だけど、こうして抱きしめて、矛盾してるな。これ以上どこにも触れないから、…暫くこのまま抱きしめさせてくれ…灯」
…慶而君。
時間が止まったのかと思った。…そんな願いは叶わない。間違いなく進んでいる。カチカチと時を刻む音が壁でしている。
お互いのドクドクする音が身体に響いている。
「…はぁ。これで表面上暫くは、またただの整体院の男に逆戻りしないといけないのか…。隣の部屋にはまだ居るのか?」
「今はまだ居る…だけど」
「…うん。気をつけて上り下りしろよ?ヒールは履くなよ?駆け上がったりするなよ?」
「うん、…解ってる」
「灯、頼みがある」
「なに?」
「ちょっとだけ、噛んでくれないか…」
…。
「え、何…言ってる…、の、ぁ…ん゙ん」
あ、返事も待たないで…。こんなに…深くは駄目なんだから。
「ん…灯、早く…噛め…ん、…早く」
…。
ガリ。…あ゙ー、…ごめん…。
「痛ーっ!…。…ふぅ。…フ…これじゃ変態かな…」
「ごめん大丈夫?ごめんね痛かったよね…でも、…もう、馬鹿じゃないの、こんな事…」
…どうして。
「自分に対する戒めみたいなもんだ。灯を忘れない為にもな?」
…もう…馬鹿…。
「はぁ、…灯」
腕を伸ばしてくる。
「あ、駄目、もう抱きしめられてもキュンとする…」
ドキドキさせる事、言うからよ…。
「ぁあ?何ぃ?…抱きしめるのも駄目になったか?もうちょっとだけだ…暫く何も出来ないんだぞ?離したくないじゃないか」
「…慶而君、慶而君が甘いこと言うからでしょ?…もう、馬鹿」
これで最後…そう思ってギューッと抱きしめた。
「灯、はぁぁ、きりが無いな…。…そろそろ帰らなくちゃな…」
「…うん」
「あ、やっぱりもうちょっとだけ抱きしめる」
「もう…ぁ、…ん。んー駄目よ…ん゛」
ん、ん゙ん゙。舌の痛みはどうでもいいのか、堪能する為なのか、顔を包んで深く口づける。そして食む。もう、ずっと…感じてしまってる。
「……慶而君?!…はぁ…慶而君…」
「ごめん解ってる…。…もうしないから。はぁ、切ないな、こんなの……じゃあな。…よし。また明日、だな」
「うん……また、明日だよ」
「明日からまた始めよう」
「うん」


