お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
「別に何もないですけど」私は事務長の方を振り返らず、淡々と答える。
「思い違いかもしれないけど、恋に迷っているというか、とにかく何かに囚われて、自分を見失いそうになっていないか?」
「だとしたら何ですか?」ムッとして振り返る。
「心配になるからさ、お前の事がさ」

事務長は別れた彼女や関係を持った女にも優しい。未だに困っていると、放っておけない性分なのだ。こういう男性の彼女をしていると、浮気より厄介だと思わずにいられないだろう。

「放っておいてよ。何よ飽きて捨てたくせに」
「・・・酷いな、その言葉。久しぶりに飯でも2人で行くか?それこそ2人でって何年ぶりだろうか。」

そんなやり取りをしていた背後から声をかけられた。
「・・・クリスマス、病院でもされるんですね」

私は慌てて振り返る。事務長は焦る様子もなく、「棚橋先生、お約束の時間より早いですね」先生に普通にそう話しかける。
「事務長さんの携帯を鳴らしたのですが、お出にならないので」
「・・・松嶋さん、急がないから後で事務長室にお茶を頼む」そう言った事務長はまた先生に「部屋を片付けますのでしばらくしてから来てもらえますか」と言い席を外した。
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