お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
匣の中の恋人たち
いつだったか思い出せないけれど、

秘密のタワーマンションの部屋のベランダで愛する先生と月を見ていた。

色々な魔法をかけて、私をシンデレラにしてくれた。その日は大人びた黒のノースリーブのシャツワンピを着て、お気に入りのセリーヌの網タイツだった。

「ねえ?先生。ひこうき雲を作ってみせて」
「今?夜空にひこうき雲は出来ないのに?」
「うん。」
「仕方ないな」

そう言い、ベランダの柵に背を向けて立っている私の前に屈む先生。

「?なあに?」
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