お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
貴方の吐息に届く前に・・・。

忘れられないキス

僕をその気にさせてくれたらキスをあげる、なんて。先日酔った勢いで、半ば酔っぱらいのように絡んで先生の気持ちを確かめたのだけど。

挑発するような事をしておいて、何事もなかったかのように振る舞う先生の真意がわからなかった。

茶化したりかわしたりするのに、急に真顔になるから、どうしていいかわからなくなる。

恋愛経験の差?スキルの差?それとも、こちらの想いの方が強いから?

挑発しておいて、出方をうかがっていた先生。自分から誘わずに、誘うように仕向けたのかもしれない。

ズルい男、言ってしまえばそうかもしれない。だけど、本人を目の前にするとそんなのはどうでもよくなってくる。

私たちの関係は密かに始まった。誰も知らずに始まり、いつか誰も知らずに終わるのだろう。

あれから先生の姿をまた職場で見かけると、キツネにつままれたような気持ちになった。

あんなに格好よくて華やかな先生を、ただ眺めるしか出来なかった貧乳地味子の自分が、その日を境に先生に釣り合う【いい女】になったような、そんな錯覚にさえ陥りそうだった。

そして私は経験する。もう少し先にはなるけれど、先生の吐息が届く前に、唇が触れるその前に、私に届いたキス。

経験した事のない可愛らしいキス。それは少し照れたような貴方の顔をはじめてみた忘れられないキスでもあった。



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