ムーンライト・テンプテーション ~つきあかりに誘われて~ 
俺は実の父親とうまくいかなかった。
押しつけてくる理想に反発し、容赦なくふるってくる暴力から10代の俺が身を守るには、そこから逃げ出すことしか思いつかなかった。
母親と兄ちゃんだって、自分の身を守ることで精一杯だった。
結局、俺が逃げた後、父親は俺を見限って勘当し、親子の縁をスパッと切ったが、それが父親として自分の子に下したベストな決断だったと俺は今でも信じてる。
ま、血のつながった親子でも「合う・合わねえ」ってのはあるってことだ。
同様に、「家族だから」とか、「血」とは違うつながりも、この世には存在する。
俺は実の父親のことを「父親」だとは思ってねえから、俺ん中では父親はいねえと長年定義づけられていた。

そんな俺に、最近「父親」と呼べる人が二人もできた。
一人は明里のお父さん。
もう一人は、再就職先である中山建設の社長だ。

素直な明里はきっといい両親に育てられたんだろうなと容易く想像はついてたが、実際会って話をしたことで、俺が想像していた以上に、二人とも寛大で大らかな心を持っていることが分かった。

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