~団塊世代が育った里山から~
恵みのぜい沢ソバ
山奥で生息するヤマドリや里に近い畑の草むらにすむキジは、どちらも雌より雄の方が美しい羽で着飾っているのです。
キジはニワトリくらいの大きさで、繁殖期は草ヤブのなかの地面を少し掘って枯れ草を集めて丸い巣を作って、なかに青白いマダラ模様で親指大の卵が七ケを生んで雌が温めるのです。
わずかな時間を雌キジが巣を離れているあいだに、冷血動物の蛇が巣に入って卵を全部丸飲みしたあと、細長い腹をボコボコにして草原をクネクネと逃げていくのです。
子供たちはキジの巣を見つけると卵を一つか二つ失敬して、ウズラの卵のように殻に小さな穴を開けて飲むのですが、数日してから巣にいってみると卵が七ケに戻っているのです。
ヤマドリはキジと同じ体形をしていて、雄の羽毛は鮮やかに光沢のある赤褐色で頭部の色が濃く胴体から脚にかけて次第に薄くなっていて、シッポはキジより長く薄茶色と濃い褐色の鮮やかなしま模様になって一年ごとに一節ずつ節が増えるのです。
ヤマドリは普通に見つけることは困難で、名前のとおり里山から離れた標高千五百m以下のウッソウとした森林や草ヤブに生息していて、険しい渓流の近くに生えるスギやヒノキの針葉樹林で繁茂した環境を好んで住処にして、人里の近くに生息するキジとは見事に住み分けしているのです。
キジやヤマドリは普通の鳥と違って空中を気ままに飛ぶことが不得意で、危険を感じて逃れようとするときは呼吸を止めて空へ高く舞い上がったあとは、グライダーのように弧を描いて滑空しながら遠方に着地するのです。
どっちの鳥も我が身の危険度合いを見計らって緊急に逃げる必要がない時は、ニワトリのようにスタスタと歩いて草ヤブや茂みのなかへ逃げ込むのです。
天敵や人のけはいを感じ取った時は、草ヤブや茂みのなかで身を低くしてジ~と難が過ぎ去るのをうかがっているのですが、余りにも近づくとキジやヤマドリは空へ高く舞い上がって羽根をイッパイに広げて逃げるのです。
ヤマドリの舞い上がり方がキジとは若干違っていて、上がる頂点まで一直線でなく右に左へジグザグで、ヤマドリを撃ち落とすのは難しく照準を迷っているうちに射程距離圏外まで飛び去ってしまうのです。
キジもヤマドリも天気のいい日にエサを探し回り、三つまたの枝を雪の上に押し付けた足跡を点々と雪野原に付けるのです。
ニワカ猟師が真新しいキジの足跡を見つけて追いかけると、足音を聞いたキジは慌てて近くのヤブのなかに逃げ込むのですが、さらに人が迫って来る危険を感じてヤブのなかからクックックッと、大きな羽音をあげて舞い上がるのです。
飛び降りる方向を遠目に見定めて着地した足跡を見つけて追跡するとキジは再び飛び上がっては着地、また飛び上がって着地を数度にわたり繰り返すのです。
何度も息をせずに飛ぶので体力を消耗したキジは、雪が押した柴木の隙間に潜り込んで休もうとするのですが、頭隠して尻を隠さずの足跡が隙間に入ったところから長いシッポを出しているのです。
ニワカ猟師は隙間にソォ~と近づき手を突っ込んで長い首をつかみ、バタバタと暴れるキジを押さえ付けて生け捕りにするのです。
生け捕りにして暴れていたキジはなぜか急に静かになって、ショックで失神したと思って手を放すと蘇生したキジは再び飛び上がって逃げるのです。
何時間もかかって生け捕りにしたキジが逃げられてしまったニワカ猟師は、失神しているのを死んだと勘違いをした大失敗を後悔しても仕方がなく、自然界の動物はしたたかで演技のうまい役者なのです。
植物食傾向の強い雑食のヤマドリは、大地の恵みである秋の実をしこたま食べて脂肪をたくわえた肉の味は、キジよりはヤマドリの方が癖もなくて油がのっていてうまいのです。
運よくヤマドリが捕れると羽毛をキレイに抜いて解体した肉は、さまざまな田舎料理に利用するのです。
収穫した新ソバの実を、ゴリゴリと石臼を回してひいた青みを帯びたソバ粉のなかに、冷たい水を入れて丸太を掘り抜いた練り鉢でよく練るのです。
練り玉になったソバをのし板に乗せて均一に伸ばし、菜きり包丁で切ったソバをヨロリのカギツケサンにかかった鍋で一気にゆで上げて、水にさらしてから一口大にザルへ並べるのです。
炎が燃え上がるヨロリの鉄鍋のなかは、ヤマドリの骨で取った出汁に肉と野菜をイッパイに入れて、グツグツと煮える汁と肉や野菜をおわんにとって、ソバの香りがするのを楽しみながら一口ずつ出汁にくぐらせて食べる味は最高のぜい沢なのです。
採り立て引き立て打ち立てゆで立てのソバと相まって、ヤマドリの薄く張った油の出汁は肉と野菜と新ソバのうまさは晩秋のぜい沢な味覚なのです。