~団塊世代が育った里山から~
人を化かすキツネだと信じて
豊かな山野で狩猟をする鉄砲撃ちは、自然のなかで生きる動物のなかでもキツネやテンを捕っても肉がまずいので食べるのはしないのですが、毛皮としての価値が非常に高いので猟にいって狙うのです。
群れをつくらない孤高なキツネは、他の動物と違い縄張り意識が強くて飛び回る範囲も広い上に、利口で危険を事前に知ることの習性が抜きんでているのか、鉄砲撃ちが猟場でキツネに遭遇することが極めて少ないのです。
時たまキツネの姿や足跡を見かけてしまうと、猟場一帯は他のエモノを見つけることがない無駄な一日が終わるのです。
キツネを射止めた時の口やかましい人たちが、「テッポブチ の アンチャ キツネ を 捕って キタンダッテ ネカネ アッコンチ で エエゴト ネエヨ」とウワサをするのです。
ウワサの真意を勝手に想像すると、群れを作らず単独でエサを捕る血に飢えた悪者扱いのキツネに対して、反面である意味に感謝の気持ちを込めているのです。
傾斜の厳しい山肌に苦労して植林した苗木の芽や皮を食い荒らす野ウサギや、収穫しただいじな穀物を食べる野ネズミをエサとして駆除してくれるからなのです。
山林や収穫した作物を間接的に守ってくれるキツネを、里山で暮らす多くの人々はキツネを神聖視しているのです。
キツネは野山を住みかとしている割にはきれい好きな動物で、草木のなかを駆け回って皮膚に寄生したダニやノミを退治するのができるのです。
血を吸うカユさにガマンができなくなると、幅の広い葉っぱの茎を口の先にくわえて沼や池に後ろ向きになって、後ろ足から長くて太いシッポにかけてユックリと水のなかへ静かに入るのです。
毛の根もとで吸血しているダニやノミは、キツネの体と一緒に水没するのをいやがってひっしで毛のあいだをくぐって、葉っぱをくわえる頭へと次から次と登るのです。
徐々に首から頭まで水につかって、細長い口先だけを水面に出してダニやノミがくわえた葉っぱに移ったのを確認して口から離すのです。
キツネの持つ優れた能力にピンと立った長い耳の聴覚がずば抜けて良くて、月が出ている風のない静かな野原の遠くにある木の枝から、葉っぱが一枚地面に落ちる音を聴き分けるのができるのです。
雪の下で動く野ネズミのわずかな音も聞き逃さず、空中に飛び上がっては潜む雪のなかに長い鼻と口を突っ込んで、見つけるとすばやく前脚で雪をかき分けて捕まえるのです。
月明かりに青白く照らした雪野原で黄金色の毛並みを風に揺らせたキツネが、空中に何度も飛び上がりながら雪のなかに頭を突っ込んでエサをとる姿は、月夜に演じる舞が妖艶で幻想的なのです。
小さな動物の動く音を聞いたキツネは、木々や草やぶに隠れて忍び寄り突然に空中に高く飛び上がって、空中から襲って捕まえる跳躍力もすごいのです。
耳ばかりでなくて匂いを嗅ぎとる鼻も鋭くて、生きているエサを捕るばかりでなくて病気で死んだ動物の匂いも嗅ぎとって食べてしまい、大昔の旅人が途中で行き倒れた人の死肉も貪り食う悪食の習性もあるのです。
キツネはとてもずる賢い動物で、水上の浮き草を集めて頭に乗せて体を水中に隠して、流れるように水鳥に近づき突然に水中から襲う猟もできるのです。
遊んでいる野ウサギを見つけると、近くに寄ってヒンシのケガを負ったように苦しそうにのた打ち回る演技をして、好奇心で近づいてきた野ウサギを捕るキツネは頭がいいのです。
空中に飛ぶ鳥や昆虫を捕る時は、二本足で立ち上がり背筋を伸ばした状態で前脚を使ってたたきつけて、飛んでいるエモノを地面に落とし押さえつけて捕まえるのです。
頭が良くて猟のできるキツネでも、冬の嵐で何日もエサにあり付けず飢えで死の恐怖を覚えると、恐ろしく早いスピードで走って跳躍力は二mを越す体力でエサを求めに行くのです。
一晩で里山から数十kmを離れた海岸までいき、荒れた海で浜に打ち上がった小魚類を食べて空腹を満たし山の住みかに戻ってくるのです。